樹木医学会発表「切断された根系直径と発根量の関係 および太根切断箇所の処置方法に関する研究」

一般社団法人 街路樹診断協会 技術委員会において、海外の根系保護範囲(CRZ:Critical Root Zone)や樹木保護範囲(TPZ:Tree Protection Zone)の事例を踏まえつつ、日本国内の現状に対して現実的な根系の保護方法や、根を切断する場合の処置方法を検討するため、2021年2月24日に「切断された根系直径と発根量の関係 および太根切断箇所の処置方法に関する研究」を開始しました。
開始時の記事はこちらよりご覧いただけます。

試験開始より11ヶ月経過した2022年1月25日に掘り上げ調査を実施しました。この経過報告についてはこちらをご覧ください。

今回この調査研究について、2022年12 月4 日に樹木医学会第27回大会にて研究発表を行いました。発表要旨をお知らせします。

切断された根系直径と発根量の関係および切断箇所の処置方法
(樹木医学会第27回大会発表要旨)

  1. 1. はじめに

 都市樹木の根は、埋設物の設置などにより切断されることがある。その切断面から根株が腐朽し、倒木の一因となっている事例がある。しかし、埋設管や標識類の基礎コンクリートなどが狭小空間に併設される日本の街路・公園環境では太根切断はやむを得ない場合があり、根系の切断後の経過やその処置方法についての調査研究は必須である。そこで、本調査では切断された根系直径と発根量の関係を明らかにすること、根を切断した際の処置方法と発根量の検証を目的とした。

  • 2. 材料と方法

<根の切断面の直径と発根量の関係>

 東京都内の街路から千葉県市原市内の圃場に移植され1年が経過したソメイヨシノ2本を対象とし、移植時の根の切断面から発生した根の本数を計測した。

<根の切断箇所の処置方法>

 埼玉県深谷市内の圃場に植えられているシラカシ、ケヤキを対象とし、直径26㎜以上の根の切断面に、チオファネートメチル含有の酢酸ビニル塗布剤、シリコーン系シーリング剤、アスファルト乳剤、浴室タイル補修などに用いられるエポキシ系パテの水中ボンドを塗布した4区と無処理の対照区を設け、1年後に切断面からの発根数を計測した。

  • 3. 結果

<根の切断面の直径と発根量の関係>

 切断面の直径1㎜あたりに対する発根量(発根数/直径)を求めた結果(図-1)、直径20㎜未満の根の発根量は、直径20㎜以上の根より有意に発根量が多かった。20㎜以上の根の直径1㎜あたりに対する発根量(発根数/直径)は、直径による差はみられなかった。

図-1 切断面の直径1㎜あたりに対する発根量(発根数/直径)
横軸:切断根の直径(㎜) 縦軸:単位直径あたりの発根数(発根数/直径)
***p<0.01 **p<0.05 *p<0.1 (Steel=Dwass検定)

根の切断箇所の処置方法>

 シラカシ(図‐2,3)およびケヤキ(図‐4,5)のいずれでも、無処理と比較して酢酸ビニル塗布剤で発根数が多くなる傾向がみられた。

図‐2発根数の平均値 縦軸(本)
図-4発根数の平均値 縦軸(本)
図‐3平均発根数/平均直径 縦軸(本/㎜)
図-5平均発根数/平均直径 縦軸(本/㎜)
  •  4.考察

 根の切断面からの腐朽菌の侵入を防ぐには、発根と肥大による切断面の巻き込みが重要である。根が切断された場合、直径20㎜未満の根においては、切断後、発根と肥大により切断面が速やかに覆われると考えられた。根の切断面への処理方法として酢酸ビニル塗布剤による被覆により、発根数が増加することが示唆され、直径の大きな根の巻き込みを促進するための有効な方法のひとつと考えられた。

  •  5.おわりに

 今回実施した2件の調査では、サンプル数が少ないことが課題である。この課題に対して既に異なる3種類の酢酸ビニル塗布剤を用いてシラカシ、クスノキを対象とした実験を開始した。この調査では、幹周約100㎝以上の成木8本を対象とし、十分なサンプル数が確保できるように試験区を設定している。
 2023年1月に根系調査を実施し、その結果により酢酸ビニル塗布剤の効果がより明確になると考えている。